矯正

2011年2月 1日 火曜日

【矯正】咬合筋障害

簡易スプリント:アクアライザー

【鑑別】
非常にまれながら、保定中の患者さんが「少し顎が痛い時がある」と言われることがあります。数百人に一人ぐらいの頻度です。



初診時に、そうした症状をお持ちの方も多いのですが、顎の関節内部の障害でなければ、よく患者さんと相談のうえで矯正治療を進めるのが普通です。咬合がよくなるので、その過程で、最初の症状がいつのまにか寛解することが多いです。

とはいえ、もともと既往歴のある患者さんが、なんらかのストレスが引き金になり、咀嚼筋の痛みを感じるようになることに不思議はありませんので、きっちりと診断、対処する必要があります。

特に "顎が痛い" という場合、それが、

1 原因はあまりはっきりしない一過性の筋痛なのか
2 咬合と関連した、咬合筋障害なのか
顎関節内部の障害なのか

を鑑別するのが我々の仕事になります。とりわけ(1、2)と3の間には大きな開きがあり、まず3でないことを否定できるかが、最初の大きな鍵です。
エビデンスはありませんが、自分の経験ではおよそ、9割が1、残りの1割が2の咬合筋障害を疑うことになります。

【一過性の筋痛】
一過性の筋痛というのは、ちゃんとした学術名ではなく、ここでの便宜上の呼び名とでも考えておいてください。咬合との明確な関連も見られず、症状もすぐに消退することが多いと考えられます。

まず容易に、中心位という下顎のポジションニングに誘導でき、かつ負荷テストで痛みがない場合は、関節内部に障害はないと考えられ、一安心です。
中心位からの閉口を誘導した時に、早期接触もなく、そこからの咬み込みで偏心もなければ、このストレス(試験、就職、etc)からの一過性の筋痛を疑うことになります。側頭筋という筋肉の痛みがメインで、内側翼突筋という筋肉の触診での圧痛がない場合は特にです。

リテーナを使用している場合はしばらく装着を中止し、2週間後に来院してもらうと、ほとんど自覚症状は消えているといった経過を辿ります。

リテーナとの関連で少し余談になりますが、当院では動的治療が終了し、ブラケットなどの装置を撤去したその日に可撤式のリテーナを入れることはほとんどありません。装置をはずした後、奥歯は2週間〜1か月フリーにしておき、咬合がなじむのを待ちます。その段階でリテーナの型どりを行うことになります。そのフリーにしている間の1か月〜1.5か月で並びが崩れるようなら、何をやっても崩れるダメな矯正だと思います。

【咬合筋障害】
内側翼突筋に圧痛が認められるような場合は、咬合筋障害である可能性を捨てきれないので、念のために、↓のような臼歯部を接触させないアクアライザーという簡易スプリントをしばらく装着してもらうことにしています。


簡易スプリント:アクアライザー
アクアライザーの口腔内装着

時間のある場合は、これを装着したまま、30分ぐらい本屋さんとかで時間をつぶしてきてもらうと、それだけで筋肉が楽になってる場合も多く、ほぼ咬合筋障害と診断できます。
念のため、2,3日装着してもらい、その段階で咬合のどこに問題があるか見極め、対処することにします。

咬合で問題を起こすのは多くは、第2大臼歯で、この部の早期接触とそれによる下顎の偏心、それから側方運動時の干渉です。

【咬合筋障害時の対処:第2大臼歯の干渉に関連して】
留学、ご結婚、妊娠などで急に装置をはずさなくてはいけなくなった場合など、大臼歯のトルクを完全に揃える前に動的処置を終えざるをえない場合があります。

↓のケースでもそうなのですが、一番奥の第2大臼歯の口蓋側の咬頭が落ちているのがわかると思います。
少し咬筋中央部の痛みを認め、開口制限もあるので、上記のアクアライザーを2日間つけて貰った後に、咬合器につけて調べることにしました。

上顎第2大臼歯の干渉
歯列の型どりは、こういう場合は通常より時間がかかりますが、シリコンで精密印象を採得します。
中心位という顎位で咬合器にマウントし、チェックすると、第2大臼歯にごくわずかに早期接触があり、これにより少し下顎が左に偏心している可能性があります。実際に模型上で調整をシミュレートすると、3ステップぐらいで均等接触が達成できることがわかったので、同じことを口腔内で実際に行います。
このケースでは、主に、下顎の第2大臼歯の頬側咬頭の内斜面を調整しました。
右側への側方運動時に、平衡側の干渉を起こしている部分もごくわずかにありましたが、最初の中心位での調整のおかげで、少しの調整で済みました。


咬合器模型でのチェック
模型でのチェックと調整
そこから1か月後の状態で、痛みは寛解し、開口量も45mmぐらいまで回復したところでよしとしました。

【咬合筋障害の予防:第2大臼歯のコントロール】
↓の写真では、先ほどのケースと同じ、左側の第2大臼歯の口蓋側咬頭が少し落ちてるのがわかると思います。先ほどとは異なり、こういうところにかける時間は、普通はちゃんとあります。

大臼歯の歯根のコントロールができるワイヤーがはいってからは、矯正医はこの方向から、患者さんの歯列を見る機会がさらに増えます。
前歯の並びもとても重要ですが、それと同等以上に普段は見えにくい奥歯のコントロールも大事なのです。
一般の方にこのことを知っていただけたら、それだけでも、このブログの価値はあるのではないかと思います。

矯正治療中の矯正医の留意点

ワイヤーに調整のベンドを入れ、2か月後。
↑の咬頭は上に持ち上がり、手前の第1大臼歯ときれいに連続するようになりOKです。

矯正治療中の矯正医の留意点

側方運動のチェック。下顎を右側に犬歯で誘導させた時に、左側の大臼歯に干渉はなく、きれいに抜けることを確認。それから、下の写真にはありませんが、下顎を前方にずらしていく運動をした時も、臼歯部は上下で衝突するところがないことを確認します。いずれもOKでよしとします。
平衡側での干渉がないことを確認

こうして、治療も最終盤を過ぎ、装置をはずす段取りに入いります。

今回も最後までご一読くださり、たいへんありがとうございました。



投稿者 高尾 祝文 | コメント(0) | トラックバック(0)

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